8番目に生まれた「はち」vol.1 ~取り残された夜~

作/チームCOL  


ボクは、柴犬の「はち」。

八番目に生まれたから、
「はち」っていうんだよ。


今から十年くらい前、
ボクを生んでくれたお母さんは、
ボクたちを身ごもったせいで、
飼い主さんに捨てられてしまったんだ。


獣医さんのいる牧場に預けられて、
そのまま引き取りに
来てもらえなかったんだって。
ひどいよね。


だから、ボクたち兄弟姉妹は、
牧場で生まれたの。
七番目のナナちゃんまでは、
すぐに引き取り先が決まったんだけど、
ボクだけ、なかなか引き取り手が
見つからなかったんだ。


牧場っていえば、自然いっぱいの中で
のびのび走り回っていたんだろうな
って思うかもしれない。

でもね、ちがったんだ。

ボクは、牧場で暮らしていた犬や猫や
馬たちとはちがって、あずけられた子。
引き取られたおうちでも、
すぐに慣れるようにって、
ずーっとケージに入れられていたんだ。

ケージから出してもらえたのは、
お散歩のときだけ。


ある日、みんなで牧場の奥にある森の
ほうまで遊びに行ったことがあったんだ。

ボクは、まだよちよち歩きで、
クンクンしたり葉っぱを
食べたりしていたの。

ふり返ると、だれもいなくなっていて、
ボク一人だけ置いてけぼり。

心細くて、不安でいっぱいだった。

まわりはすっかり暗くなっていて、
ボクはかすかな匂いをたどりながら、
なんとかおうちに帰ったんだ。


帰ったら、牧場の飼い主さんが
コーギーのロン君をしかってた。

ボクが気づかない間に、
みんなを引き連れて
帰っちゃったんだって。


ロン君は、この牧場に
一番古くからいる犬だから、
みんなのボス的存在。

ボクはよそ者だから、
ロン君はいじわるしたく
なっちゃったのかな。


その夜、ボクはケージの中で、
小さく小さくなって、眠った。

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