悲しみのスーツケース vol.14 ~お別れを告げられた日~

作/チームCOL

次の日の夕方、
ママはいつも行かない時間帯に
ボクを散歩に連れ出した。


いつもとちがう時間に、
いつもよりも短いお散歩コース。


ボクは確信した。
ママは、どこか遠くに
長い旅に出ようとしているんだ!


ボクは、ひらすらスーツケースの
まわりをウロウロする。


お願い、行かないで……。


いそがしそうに準備をしている
ママの足にからみついてみる。


アウゥ~~~


後ろの二本足で立って、前足で
「お願い、お願い」
と、おねだりポーズもしてみた。


だけどママは、

「わかった、わかった。これね」

と言って、ボクの好きなボーロと、
チーズのおやつをくれた。
思わず口に入れる。


ちがーーう!
(これはこれで、
 おいしいんだけど……)


オヤツじゃないんだよー!
行かないでってば~~


ボクのうったえもむなしく、
ママはスーツケースをにぎりしめて
ボクにむかってお別れを告げた。


「はっちゃん、ママお仕事なの。
 明日の夕方には帰ってくるね。
 みーちゃんが、明日の朝に来て、
 お散歩に行ってくれることに
 なってるから、
 それまで待っててね」


……。


ママの手が、ボクの頭や背中を
ナデナデする。


だけど、ぜんぜんうれしくない。
ボクはさみしくて、
置いて行かれることが悲しかった。


もしかしたらママは、もう帰って
こないかもしれないんだよ。
牧場にいた時だって、
ボクのお母さんは、
飼い主さんにむかえに来て
もらえなかったんだから。


ママが出ていく姿を
見ていられなくて、
ボクはママに背を向けて
寝室へとトボトボ歩いていく。


「やだ~。はっちゃん、そんなに
 悲しそうな背中を見せられたら、
 ママ、行きにくいなぁ。
 困ったな~。でも、もう時間! 
 はっちゃん、明日すぐもどるから。
 じゃあ、ごめんね……」


背中越しに、
ママの心配そうな声が聞こえた。


いいんだ、いいんだもん。
グスン……。

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