元カレ

From 倉橋燿子


最近、「元カレ」とそっくりな男性と出会った。


というと、なんだかちょっと意味深な感じが
するけれど、「男性」と言っても二十歳の若者だ。


私が大学時代、付き合っていた「元カレ」に
そっくりな彼は、近所のコンビニで
アルバイトをしている。
背も高めでなかなかハンサムなイケメンだ。

この数十年、ホンモノの「元カレ」のことを
思い出したことはなく、すっかり記憶の彼方に
葬られていた。けれど、人の記憶というのは
不思議なもので、彼を見た瞬間から、昔の記憶が
一気に蘇ってきてしまった。


記憶を辿ってみると、残念なことに「元カレ」
とは、数回のデートで終了してしまった。
なぜかというと、(こんなことを言っては
失礼なのは重々承知だけど)
一緒にいても、楽しくなかった…、のだ。


“楽しくない”つまり“つまらない”というのは
お付き合いをするには致命的。
実際、二人の会話はまったく
噛み合っていなかったっけ…。


        ★


時は遡り、大学時代のあるデートの日のこと。

車で颯爽と家まで迎えに来てくれた「元カレ」は
私を助手席に乗せ、六本木に車を走らせた。
日本で初めてピザを出してくれるという
話題のイタリアンレストランに
連れて行ってくれた。
ただ、大学生とはいえ、数年前まで広島の
田舎の女子高生だった私は、ピザというものを
食べたことがない。
テーブルに出てきたピザを見て、
思わず口走ってしまった。

「へぇ~、これ、
 イタリア風お好み焼きみたいですねー」


“広島焼き”の本場、広島が故郷だった私には、
そうとしか見えなかった。

「元カレ」は、「え………」と言ったきり絶句。
私の言葉だけが、虚しく宙に漂った。



再び車に乗った彼は、当時流行っていた
“カーペンターズ”の曲をかけ、

「いいよねぇ~~、カーペンターズ!」

と爽やかスマイル。
“カーペンターズ”を知らなかった私は、

「カーペンターズ? はぁ…、へぇー…」

と脳内は「?」でいっぱいになった。
またしても、会話にならなかった。



今思えばキザだなぁ~と思うけど、彼は
六本木の街を運転しながら、ごく自然に言った。

「六本木は、庭みたいなもんなんだよね~」

言葉どおりに受けとめた私は、

「へぇ~~。子供の時、
 六本木でよく遊んでたんですね~」

まるでとんちんかんな返答をしてしまった。



それから、フレンチレストランやオシャレな
カフェにも連れて行ってくれたことがあった。
そんな高級な場所に足を踏み入れたことなど
ない私は、緊張に緊張が重なり、カチッコチに
固まってしまった・・・。
出された食事も大して喉を通らず、味も
わからないまま、ほぼ無言のまま過ごした。

そしてとうとう、その後
お誘いが来ることはなくなってしまった。


        ★


こうして振り返ってみると、
つまらなかったのは私だけじゃなかったのだ。

「元カレ」も、
つまらない思いをしていたことは確かだ。


だけど、やっぱりキザ・・・・・・(^_^;)




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