執念の白菜
From 倉橋燿子
「きのう、白菜食べたでしょ」
腸の検査をした後、先生に言われた。
どうやら、わたしの腸壁に
2枚の白菜がへばり付いていたらしい。
10年以上前、一度大病を患ったことがあり、
それ以来、毎年一回検査を受けている。
この検査がイヤすぎて、先延ばしにして
いたんだけど、春になって暖かくなったから
さすがにもう行ったほうがいいと家族に言われ、
ようやく重い腰を上げて、検査を受けた。
それが、この事件の発端。
だけど、どう思い返してみても、
きのう、白菜は食べてない。
先生にも、そう言ったら、
「でも、白菜がばっちり、
“はくさい~~!”って感じで付いてましたよ。
これは誰が見ても白菜にしか見えませんよー」
有無を言わさぬ勢いだ。
胃カメラの写真を見たら、
確かに、白い茎の部分が肉厚な白菜で、
大きいのが2枚、ペタペターッ
と貼り付いていた。
噛まずに呑み込んだのかしら……。
もしくは、噛み切れてなかったのか……。
そう言えば、噛み合わせが悪くなっていて、
歯医者に行かなきゃとは思っていたんだった。
そうして、よくよく考えてみたら思い出した。
3日前、白菜漬けを食べたんだ。
えっ、でも待って。3日前よ。
3日も経ってるのよ?
それがまだ消化もされずに、
白菜の形状を保ってるってこと?
先生に伝えると、
「頑固な白菜ですね~」
と、妙に感心したように言い、
改まってわたしの顔を見る。
「その白菜の下に何があったのかが、
僕は気になって気になって……」
というのは、内視鏡を入れた時、
私の腸壁にポリープが発見された。
良性だったけど、放っておくと成長して
悪性に変化する場合もあるからと、
検査中に内視鏡の先端で、切除してもらった。
だから、特に今のところ心配はない。
でも、先生は、その貼り付いた白菜の下に
ポリープが隠れているかもしれないと、
それを心配しているのだ。
「白菜さえなければなぁー。
僕は、アレがど~~しても気になるんですよ。
検査の時に、内視鏡でなんとか白菜を
取ろうとしたんですけどね。でも、
うまく引っかからなかったんですよー。
白菜が腸に同化してましたから」
えっ!? 白菜が腸に同化!?
今、私の腸の一部は白菜でできてるってこと!?
“白菜”を何度も連発した先生は、頷いて、
「来年、年明けくらいに再検査しましょうか」
と言った。
が、すぐに先生の表情が曇った。
「ダメだ。
1月といえば、その頃も白菜の季節だ…」
た、たしかにそう。先生、鋭い。
しかも、わたしは無類の鍋好き。
冬は、ほぼ毎日のように白菜を食べる。
年明けの案はすぐに却下され、
「検査は寒くなる前にしましょう」
ということで合意した。
そして、先生の最後の一言。
「これだけ野菜が形状ごと残っている人、
僕は、初めて見ましたよーー!」
はぁぁ、、、
なんか、すいません……(>_<)
わたしの本名を忘れても、
「あの白菜の人ね」と言われそうなくらい、
白菜インパクトが付いてしまった。
おそるべし、白菜の執念……。
でも、さすがに執念深い白菜も、
次の検査の頃にはなくなってるよね?
もしかしたら、ほかの野菜が
へばりついてたりして……。
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