赤い車がやってきた vol.2 ~ママとはっちゃんのはじめまして~
作/チームCOL
それから数か月が経って、
もみじが赤くなりはじめたころ、
牧場に赤い車がやってきた。
おんなの人が車から降りてきて、
ボクを見て「はっちゃん?」って、
ニコニコうれしそうに笑うんだ。
ボクは、おどろいたのと、
はずかしいのとで、
すぐに目を伏せちゃった。
初めて会ったその人は、
まっすぐにボクを見て、
「はっちゃん、
今日からわたしがママよ。
よろしくね」
って、ボクをやさしくなでてくれた。
そう、これがボクのママ。
牧場から一度も出たことがないボクは、
車に乗るのは、もちろん初めて。
足下が揺れるなんてことも、
一度も経験がなかったから、
こわくてこわくて、仕方がなかったよ。
「た、助けてください……」
ハンドルをにぎっているママの腕に、
そろそろと前足を出してみる。
そうしたら、ママは、
ボクをヒョイッと、
ひざに座らせてくれたんだ。
それでも、ボクはまったく
落ち着かなくて、ずーっと息を
ハァハァさせて、立ち上がってみたり、
ひざからズリ落ちそうになってみたり、
ママの腕やハンドルや窓を、
とにかくカリカリしていたんだ…。
ママは、その度に
「はっちゃん、
あぶないよーーっ!!」
数時間、車に揺られて、
すっかり気持ちが悪くなった
ボクは、とうとうママのひざに
吐いちゃった。
ママは、キャーキャー言って
あわてていたけど、
「ごめんね、酔っちゃったのかな。
大丈夫かしら……」
って、ボクの心配ばかりしていたよ。
知らない場所、知らないもの、
知らないおうち……。
見るもの、嗅ぐもの、すべてが
初めてで、ボクは、不安と恐怖で
いっぱいだった。
だけどね……、
もうボクは、ママのこと、
ほんのちょっぴり
好きになっていたんだ。
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